近年、犬の寿命が延びて高齢化が進んだ結果、腫瘍が急増しており、ガンが死因の1位になりました。
 
中でも体表部の腫瘍は、犬の腫瘍の「31パーセントを占めます(引用元:イヌの病気百科 202頁 麻布大学獣医学部付属病院のデータ)」との報告があります。
 
ここでは、飼い主さんが発見しやすい、体の表面にできる癌の一つ「肛門周囲腺癌」について、我が家の犬の症例とともにご紹介します。

 

 

目次

1.肛門周囲腺癌の症状

 1.1.肛門周囲腺癌とは

 1.2どんな症状が出るの?

 1.3ウチのワンコの場合

2.肛門周囲腺癌の原因は?

3.治療と対策

 3.1診断は?

 3.2治療法

 3.3対策と予防

 3.4治療体験記

4.加齢との因果関係

5.飼い主ができること

 

1.肛門周囲腺癌の症状

排便時の様子に変化が見られ、肛門の近くにしこりが触れます。

1.1.肛門周囲腺癌とは

肛門の周りに出来る腫瘍の約80%は、良性の「肛門周囲腺腫」です。
 
オスの腫瘍の第3位を占め、去勢をしていない高齢のオスに多発、雄性ホルモンが影響するといわれています。(参照:南大阪動物医療センター)
 
残り20%の悪性腫瘍の1つが、「肛門周囲腺癌」(腺細胞が肝細胞と似ているため、「肝様細胞癌」ともいいます)です。
 
去勢の有無や、雄性ホルモンとは関係がありません。良性が悪性に変化する場合もあるそうです。
 
シベリアンハスキーとシーズーに好発するガンで、肛門周囲以外に、尻尾・ペニス・背中・腰・腹・顔・頭に発症する場合もあります。
 
去勢をしたオス犬の肛門周囲の毛が生えていない部位に、1つだけできた腫瘍が急激に大きくなったら要注意ですね。

 
 
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1.2どんな症状が出るの?

初期は、黒ずんだ小さく硬いしこりとして、見つかります。腫瘍をつまんで動かすと、下の組織としっかり、くっついているように感じます。
 
皮膚病やケガと判別できない場合もありますが、一般的な皮膚病の治療では症状が改善しません。
 
腫瘍が大きくなると、便の出が悪くなったり、痛くて悲鳴をあげることもあります。
 
頻繁にお尻を舐めたり尻尾を追いかける、床や地面にお尻をこすりつけたり、ウンチをしたそうな素振りで、ずっと歩きまわるといった行動がみられます。
 
進行すると、出血したり化膿することが多く、大きさに比例して切除が困難になってきます。
 
日頃から愛犬のお尻周りに注意して、普段と違う様子がないか気にかけてあげましょう。

 

1.3ウチのワンコの場合

 

 
我が家のシーズー犬(オス)が、下あごの肛門周囲腺癌を患ったのは、9歳の秋です。
 
最初に気付いたのは、2mmほどの小さなしこりが触れた時でした。
 
しかし、シーズーは皮膚が弱く、オデキやイボができ易いので、さほど気にしませんでした。
 
毛に隠れて目立たなかったため、2週間ほど放置してしまった間に、しこりは直径4mmに成長していました。
 
毛をかき分けて、よくよく観察すると、いつものデキモノと様子が違います。
 
よくできるオデキの色は赤、イボは白っぽいのですが、このしこりは黒ずんでいました。
 
又、形もドーム型の独特のフォルム、これはいけないと焦り、あわてて掛かり付けの動物病院を受診しました。

 

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2.肛門周囲腺癌の原因は?

細胞の遺伝子に異常を起こす原因は様々ですが、確定的な原因は明らかになっていません。
 
犬の場合は、高齢化・生活環境・ペットフードの食品添加物・酸化した食物の長期摂取・食餌中の動物性食品の増加・遺伝(近親交配)などが挙げられ、「イヌは人間の約2倍も腫瘍になりやすい動物である(引用元:イヌの病気百科 200頁 麻布大学獣医学部 信田)」といわれています。

 

3.治療と対策

3.1診断は?

腫瘍の診断には、針生検(細胞診:注射針で採取した細胞を調べる)と切除生検(組織診断:皮膚の組織の一部を採取して調べる)があります。
 
肛門周囲腺癌の診断には、腫瘍を切除して病理判断にゆだねる方法が選択されます。初期に肉眼で、良性・悪性の区別はできないといわれています。

 

3.2治療法

治療は、直径1cm前後であれば、周囲の組織を含めて切除手術が施されます。
 
腫瘍が大きすぎて取りきれなかったり、浸潤したリンパ節が切除できなかった場合は、術後化学療法が必要なケースもあります。

 

3.3対策と予防

・食事
年齢に応じた栄養バランスのフード、防腐剤などの人工的な添加物が含まれないものを選びましょう。
 
健康を保ち、発がん性物質をなるべく与えないことが重要です。
 
・運動
必要な体力と筋力、運動能力を保つため運動は欠かせません。また、血液やリンパ液の循環をよくすることで、正常な免疫や排泄を維持します。
 
・睡眠
抗癌ホルモン メラトニンの生成には、暗い場所で十分な睡眠をとる必要があります。安心して休める暗くて静かな寝床を用意してあげましょう。
 
・ストレス
高齢になるほど、知らない人や犬に対して、不安や恐怖、敵意などを感じるようになります。
また、寒暖の差や騒音などの環境、飼い主と離れる不安もストレスになるでしょう。
 
・去勢・避妊
ホルモンが関与するガンの予防には、早期の去勢・避妊が有効な場合が多いです。ただし、骨肉腫のリスクが高くなるともいわれていますので、担当獣医師とよく相談してください。

 
 
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初期の皮膚癌は毛に隠れて(特に長毛種)解りづらいので、ブラッシングのお手入れなどで頻回に愛犬に触れるようにしましょう。
 
症状を訴えられない犬にかわって、飼い主さんが注意深く観察して、早期発見に努めることが大切です。
 
高齢になったら、小さな事でも気軽に相談できる掛かり付け動物病院を設け、定期的に画像診断検査を受けることが予防になります。

 

3.4治療体験記

 

 
全身麻酔で切除する、日帰り手術を受けました。朝預けて昼に手術、夕方引き取りのスケジュールで、治療費は合計47,770円でした。
 
手術日は祈る思いで預け、病理検査の結果が出るまでは、ガンでない事を願い続けました。
 
残念ながら肛門周囲腺癌でしたが、現在は2カ月に1度経過観察のため通院し、再発や転移は認められません。

 

4.加齢との因果関係

 

 

肛門周囲の腫瘍は、オスの高齢犬(8~12歳)に多い、典型的な高齢疾患です。
 
遺伝子の突然変異から異常増殖してガン化するまでの段階は、高齢になるほどリスクが増えるといわれています。
 
加齢と共に身体機能や新陳代謝、免疫力が低下して発症しやすくなるのですね。

 

5.飼い主ができること

 

 
犬の1年は、人間の4年から6年に相当するといわれています。
 
家族の一員となった可愛い子犬が、あっという間に歳をとり、老犬となります。飼い主さんの願いは一つ、「最後まで健康で、天寿を全うしてください」です。
 
皮膚癌は、比較的飼い主が発見しやすい腫瘍です。患っても自分では病院に行けない犬のために、飼い主さんは常に愛犬の身体を気遣い、環境に配慮しましょう。
 
そしてたとえ病気になったとしても、後悔しない手当をしてあげることで、飼い主さんも愛犬も安らかな最後を迎えることができるのではないでしょうか。
 
「病を患っても、犬は決して生きることを諦めない」ことを忘れてはいけませんね。
 
参照・参考:矢沢サイエンスオフィス編(2002)『イヌの病気百科』学習研究社.
 
ハート動物病院ダイアリー

 

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