
ピットブルは本当に「危険な犬」なのか?
ピットブルは、闘犬として誕生した犬種で、日本でも海外でも国を問わず愛好家が多くいる犬種です。
その反面、人間を襲う事故が発生したことで「特定犬種」として危険視されることも。本当のところはどうなのでしょうか?
自身もピットブルの愛犬ザウと暮らす筆者がその歴史から見えてきたピットブルの真実を紐解きます。
ピットブルとはどんな犬種なのか?
ピットブルと呼ばれる犬種は、もともと、「スタッフォードシャー・ブル・テリア」という犬種と、「ブルドック」を交配させて生まれた闘犬です。
スタッフォードシャー・ブル・テリア
スタッフォードシャー・ブル・テリアは19世紀のイギリスで牛いじめ・熊いじめの闘犬スポーツ用に改良されて出来た犬種です。
見た目はブルドッグに近くがっしりした体形に太い脚、ぺちゃんこの顔が特徴的です。
日本でも海外でも国を問わず愛好家が多く、今なお愛されている犬種です。忍耐強く正義感が強いことから、闘犬のみならず番犬としても重宝されています。
1835年にイギリス政府の厳令により闘犬が廃止され、それと同時にケンネルクラブ英国に登録されました。その後も悪質な飼い主により違法に闘犬として闘うことを強いられてきた子もいましたが、1920年に完全に闘犬から卒業しました。
その後はペット用やショードッグ用としてマンチェスター・テリアが交配され、徐々に攻撃的な性格が抑えられました。
色はレッド・ブリンドル・フォーン・ブルーと様々ですが、レバーとブラック&タンは好ましくないとされています。今現在は特に関係なく、どの子も人気です。
英国ではスタッフォードシャー・ブル・テリアは常にトップ5に入るほど人気の犬種で、日本でも毎年登録数が伸びています。
アメリカン・スタッフォードシャー・テリア
1870年に英国から来たスタッフォードシャー・ブル・テリアが基盤になり出来た犬種が、アメリカン・スタッフォードシャー・テリアです。
日本で一般的に「ピットブル」と呼ばれる犬種のほとんどはこのアメリカン・スタッフォードシャー・テリアになります。
スタッフォードシャー・ブル・テリアは英国から来た際にショードッグとして改良されましたが、闘犬用として使い続けることを望んだ愛好家たちの間で摩擦が起き、その結果独立して闘犬種としての文化を育んできたのが「アメリカン・ピットブル・テリア」です。
アイリッシュ・スタッフォードシャー・ブル・テリア
アイリッシュ・スタッフォードシャー・ブル・テリアは最近になって作出された犬種です。
スタッフォードシャー・ブル・テリアの闘犬としての性質ではなく、犬としての本来の姿を取り戻すことが目的で交配されました。
スタッフォードシャー・ブル・テリアやアメリカン・スタッフォードシャー・テリアと比べ、アイリッシュ・スタッフォードシャー・ブル・テリアは穏やかでペット向きの犬種とも言えます。
闘犬としての歴史
ピットブルは、もともと闘犬のために作られた犬種です。ピットブルのことを知るためには、闘犬について知ることが不可欠。ここでは闘犬の歴史をご紹介します。
闘犬とは
闘犬とは犬と犬を闘わせるブラッド・スポーツの一種です。
ブラッド・スポーツというのは動物に暴力を振るったり、動物同士を闘わせたりして楽しむ余興のひとつです。
昔は貴族が楽しむもので、芝居を見ることとブラッド・スポーツを楽しむことは変わりない感覚でした。
闘犬にもルールは存在しましたが、たいていは血(ブラッド)が流れ死んでしまう動物が多いことから「ブラッド・スポーツ」と呼ばれるようになりました。
文字通りの「死闘」
闘犬の試合にもいくつかルールが存在し、その多くはあくまでも犬の安全を前提に考えるものですが、アメリカの闘犬事情は少し違います。
ほとんどの試合はデスマッチと呼ばれ、どちらかの飼い主が相手の飼い主に謝るまで続けられました。
闘犬に違法賭博が絡んでいる試合が多く、飼い主として負けるわけにはいかなかったのです。
飼い犬でもある闘犬が死ぬまで行われる場合がほとんどで、試合に負けた後は飼い主に暴行を受け殺される闘犬も多かったそうです。
現在ではアメリカで闘犬の試合を行ったり育てたりトレーニングすることは重犯罪と見なされ、厳しい罰を受けることになります。
日本の闘犬
日本の闘犬は主に高知県と秋田県で行われていました。
闘犬に用いられる犬種はボクサー犬や秋田犬・土佐闘犬などで、高知県のブラッド・スポーツは土佐闘犬を檻に入れて闘わせ、現在でも行われています。
秋田県では猟師の遊びとして秋田犬同士を闘わせる遊びが流行しました。
現在では闘犬は、東京都・神奈川県・富山県・石川県・北海道で「闘犬、闘鶏、闘牛等取締条例」により禁止されています。
北海道では土佐犬のみ許可制で闘犬をすることが可能です。
犠牲になったピットブル
屈強な戦士
闘犬として用いられているピットブルのほとんどが「アメリカン・スタッフォードシャー・ブル・テリア」です。
共に闘犬として用いられていた土佐犬は顔の目の前に火の付いた新聞紙を投げ入れると闘いをやめると言われていますが、ピットブルはそんなことでは闘いを止めません。
木の棒を2本口の中に入れ、クロスするようにこじ開けてもまだ止めない子もいるほどです。それだけ強靭なアゴと強い闘争心を持っているピットブルは闘犬愛好家の中でも特に重宝されました。
「大切な家族」ではなかった
闘犬家は飼い犬に名前を付けません。愛着が湧いてしまうと闘わせることに戸惑いを感じてしまうため、あくまでも闘犬は闘犬であってペットではないのです。
試合中にけがをしたり目がえぐれたり、肉が引きちぎれても病院に連れていかない場合もあったと言います。
あくまでも闘犬用に飼っているだけなので、本当はこんな言い方はしたくありませんが、死んでも代わりはいくらでもいるのです。
強くたくましく1度闘いを始めると死ぬまで闘い続けるピットブルは、闘犬としての道を歩く運命だったのだと思います。
でも裏を返せばその性格は、飼い主に従順で心優しく頼りになるということです。そんな本来の魅力に愚かな人間が気付くまでの長い間、多くのピットブルが犠牲になりました。
事故によって受けた社会からの評価
世界一「人を襲う犬」
ピットブルはその性質や気質から、世界で1番人を襲う犬として有名です。
YouTubeには事故の動画がたくさん上がっていますが、目も当てられないほどの光景です。ですが、ほとんどの事故の原因は人間側にあります。
暴漢や強盗から飼い主を守ろうとしただけなのにその気質からやり過ぎてしまったり、触れ合おうとした人間がピットブルの性質を知らずに上から触ろうとしたりふざけたりして闘争心に火をつけてしまったりと、ピットブルが100%悪くて人を襲ったことはありません。
いくら血筋が闘犬だからといって人を襲うことはその性格や血筋から来るものではなく、飼育環境やしつけの方法など人為的な要因が主なのです。
拭いきれない危険なイメージ
今でもピットブルという犬種は偏見の多い犬種です。ペットショップでは売られていない犬種なので飼いたい場合はブリーダーを探すしかありません。街を歩いていても見掛けるのは珍しい犬種です。
犬を飼っている(た)人や愛犬家の人ならピットブルという名前を聞いたことがあると思います。
ですが、その反応は飼い主としては悲しいものが多いです。「飼いにくい」「怖い」「危ない」といったイメージが今なお根強く、偏見の目が多いのが現状です。
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