
人と動物が触れ合うアニマルセラピーとは~癒しの効果を介護施設で体験~
みなさんは「アニマルセラピー」という言葉をご存知でしょうか?
動物たちが心を癒してくれる効果は、誰もが感じていることでしょう。
アニマルセラピーとは、動物と触れ合うことでストレスを軽減したり、自信を取り戻して精神的な安定を図ったりする療法のことです。人の心を救うアニマルセラピーについて、詳しく説明します。
アニマルセラピーとは
直訳するとAnimal(動物):Therapy(治療)であることからもわかるとおり、動物たちと触れあうことで、疾病や生活環境などによって心に問題を抱える方などに対し何らかの効果を期待する療法です。
その歴史は古く、紀元前400年頃の古代ローマ時代に、戦争で負傷した兵士を乗馬させて治療したのが最初といわれています。1)
馬の優しい目と蹄の音は傷ついた兵士に安らぎを与えたことでしょう。

1792年にはイギリスの精神障害者施設で、患者たちにウサギやニワトリなどの動物を飼育させることで自制心を身につけさせる試みが行われたり、1867年にはドイツのてんかん治療施設で、症状を軽減するためにペットを用いる試みがなされたと記録されています。
また、精神分析学の創始者であるフロイトは、動物の持つ効果に気づき、患者と接する際にチャウチャウを傍らに座らせていたといわれています。2)
現在、動物の持つヒーリング効果は、2つの心理療法として取り入れられています。
- 動物介在活動(AAA)
ボランティアが犬猫などを連れて高齢者施設や福祉施設、医療機関などを訪問し、動物と入居者(または患者)と触れ合うことを目的とした療法
- 動物介在療法(AAT)
治療計画の中に、動物の参加を組み込み、治療の補助的な役割を担わせる療法
一部に動物介在療法(AAT)を行っている施設がありますが、日本においては、公益社団法人日本動物病院協会やNPO法人日本アニマルセラピー協会、その他地域のNPO法人などにより、動物介在活動(AAA)が行われています。3)
アニマルセラピーの効果
動物と触れ合うことで得られる効果は大きく分けて3つあるといわれています。4)
生理的効果
動物のかわいらしさは、人をリラックスさせる効果があります。散歩をさせることで軽いリハビリテーションになりますし、運動を続けることで血圧やコレストロール値を低下させることも期待できます。
心理的効果
動物の行動は人に笑顔をもたらし、楽しい気持ちや、くつろいだ気持ちにさせてくれます。また、動物との関係を築くことで親密になり、それが「生きがい」となります。
社会的効果
動物の世話をすることで、人としての役割を得ることができますし、動物好き同志のコミュニケーション手段になります。
本当に効果はある?
これまで疾患別の研究は行われていますが、アニマルセラピーの効果について、現時点では下記の理由により、科学的根拠に基づいた理論があるとはいいにくい状況です。
- データ収集に必要な実験が行えない
- 立証に必要なコホート分析(疾病の発生と関連するとされる因子を変動させてその効果を検証する実験)や、二重盲検法(効果のあるものとないものを混合させ、被験者にそれを知らせないで効果を測定する実験)などの実験が行えない。
- 効果とアニマルセラピーの因果関係が明確でない
- 脳辺縁系の扁桃体への作用や、自律神経系への作用の効果があったとしても、動物との触れ合いが直接的な原因なのかが明確でない。5)
医療的な治療方法として、自然治癒力を利用して回復を目指す「対症療法」と、症状や疾患の原因を取り除く「原因療法」がありますが、アニマルセラピーの効果は、このいずれにも該当しません。
しかし科学的根拠が証明しにくいからといって、「効果がない」というわけではありません。
すでに古代ローマから実施されている通り、動物との交流は多くの人に良い効果をもたらすことは間違いありません。
人間のメカニズムは、理論的に解明されていない部分が多く、これから科学的な解明がなされていくかもしれませんね。
アニマルセラピーを行う場面
アニマルセラピーでは、高齢者介護施設、心身に障がいがある方の施設、慢性期の入院患者がいる医療機関、さらに刑務所などを訪問します。
こうした入所施設には、心身に病気を抱えている方が多く塞ぎ気味になる傾向があります。
そうした方々と動物が触れ合うことで、生き物をかわいがる喜びや、命の尊さを感じることにより、ヒーリング効果が生まれるといわれています。
アニマルセラピーに向いている動物は?

「人懐っこいこと」「人に従順なこと」「おとなしいこと」などを基準に考えると、もっともセラピーアニマルに向いているのは「犬」といえます。
これまで犬は数十万年にわたり人と生活してきました。盲導犬・聴導犬・介助犬などの補助犬や、警察犬、救助犬などで活躍していることからもわかるとおり、アニマルセラピー向きであることは間違いありません。
ただし、どんな犬種でも向いているわけではありません。
柴犬や秋田犬などの日本犬や、一見かわいいダックスフンドなどは狩猟犬なので、本能が勝ってしまうためか、あまりアニマルセラピーに向いているとはいえないようです。
もっとも、個体差があるため日本犬でも適性検査に合格すれば、セラピードッグとして活動することができます。
アニマルセラピーを行う際の注意点
残念ながらアニマルセラピーは、誰にでも受け入れられるものではありません。
中には生理的に動物を受け付けない、過去に噛まれたなどの恐怖体験がトラウマとなっている、ペットの死の悲しみから失意を感じる「ペットロス」という状況に陥り、動物を見ると精神不安を引き起こすなど、動物と接することでマイナスの効果が表れる場合があります。
アニマルセラピーを行う際には、そうした方々との接触がないよう、十分に配慮してください。
介護施設の現場からのリポート
最後に、アニマルセラピーがどのように行われているのか紹介します。
今回、「NPO法人北海道ボランティアドッグの会」の活動に同行させていただきました。
本会は1996年に創設、セラピー犬登録頭数128頭・26犬種
(平成26年3月現在)を誇り、札幌および近郊を中心に、旭川・深川・滝川、帯広・北見など、全道41箇所の福祉施設・病院を訪問しています。

この施設には、心身の状態により家庭で介護が困難な方が多数入居しています。施設がオープンしてからすぐにボランティアドッグを招き、すでに20年余りが経過しています。
本日のボランティアドッグは10頭。フロアが1階と2階に分かれているため、大きさや性格などを考慮しながら、どの犬をどこに配置するかが打ち合わされます。

施設の職員が入居者を誘導し、着席させていきます。
椅子を使用するのは、大型犬の頭を撫でやすい位置にするためや、小型犬を抱きやすいようにするための配慮です。
犬が入居者の間に入りやすいように椅子の間隔を広げ、犬が乗るための椅子を用意します。
動物が好きな人やこれまで犬を飼っていた人たちが、毎月1度の訪問を楽しみに待っています。ボランティアドッグを楽しみに、毎月訪問日に「ショートステイ(短期入所)」を利用する方もいるそうです。
高齢者の方々は、ご自身の生活環境や年齢を考えると動物を飼うのが難しい方が多いですが、ボランティアドッグと触れ合うことで、気持ちが満たされるそうです。

どの犬もおとなしく撫でられています。ボランティアドッグになるためには、病気などを持っていないかを調べる検体と、北海道ボランティアドッグの会が実施する適性検査に合格しなくてはなりません。
適性検査は、ハンドラー(飼い主)の指示が聞けるか、他の犬に興味を持たないか、触られることに抵抗ないか、大きな物音に過剰に反応しないかなど、犬だけでなく、ハンドラーの適性や犬との信頼関係も対象になるそうです。

会の方に伺うと、最初からボランティアドッグとして育てようとしたわけではなく、ドッグランなどでボランティアドッグの話を聞き、「ウチのワンちゃんもおとなしく、人懐っこいので、できるのではないか」と思い、活動に参加するようになったそうです。
「社会貢献をしている」という意識ではなく、「犬と触れて喜んでくれれば飼い主としても嬉しいし、可愛がられることで犬も喜ぶ」というシンプルな気持ちが、活動の源になっています。
入居者の方々と、ボランティアドッグの触れ合いを見ていると、入居者の方も犬も嬉しそうで、まさにその言葉通りだと実感しました。
動物たちから受ける安らぎの効果
ボランティアドッグが訪問することで、ひと時の楽しさがあり、またその日を迎えるために健やかな生活を送れるように努める。
アニマルセラピーには、「張り合い」や「生きがい」に導く効果があることを実感しました。しかしながら、まだ日本ではアニマルセラピーが普及しているとはいえない状況です。
ご家庭で飼われているワンちゃんが、よく人に懐き、可愛がられることを喜んでいるのなら、ボランティアドッグの素質があると思います。多くの人たちに喜びを届ける活動に、参加してみませんか。
<出典>
1)日本アニマルセラピー協会
http://animal-t.or.jp/animal-assisted-therapy/aat01-what-is-animal-assisted-therapy/
2)子犬の部屋
http://www.koinuno-heya.com/fushigi/animal-therapy.html
3)わんちゃんホンポ
https://wanchan.jp/osusume/detail/1626
4)太陽笑顔fufufu
http://fufufu.rohto.co.jp/feature/1858/2/
5)疑似科学とされるものの科学性判定サイト
http://www.sciencecomlabo.jp/alternative_medicine/animal-therapy.html
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