谷田大輔会長×ドッグトレーナー三井翔平氏 | Fanimal(ファニマル)

人の健康を考える仕事から、ペットの健康を考える仕事へと舵を切ったFanimal 谷田大輔会長と、「犬と人とのコミュニケーション」をテーマに活躍中のドッグトレーナー・三井翔平氏の対談が実現。

犬がもたらす健康効果とは?正しい犬のしつけ方とは?今回は、犬と人とが築くべき関係性から、触れ合うことで起こる変化まで、じっくりお話いただきました。

■トレーナーが携わっているのは、山ほどある問題の一

谷田大輔会長(以下、谷田):どのようにドッグトレーナーになられたんですか?

三井翔平氏(以下、三井):実は僕、大学に入るまで犬を飼ったことがなかったんです(笑)。動物の行動に興味があったので、大学では、はじめは猿の研究をしていたんですね。刺激を与えた時の反応を観察したり、体の物質を測ったりしました。そのうち犬も研究対象になってきまして、研究を重ねるうちに、行動学をしつけに生かすことが必要とされていると感じ、トレーナーを始めました。

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谷田:
日本にトレーナーはどのくらいいるのですか?

三井:統一資格が無いので名乗ってしまえば誰でもなれるのが現状です。団体ごとに資格の基準がバラバラなので正確な数はわかりません。どんなに多く見積もっても2〜3万人いればいい方かな、と。
しかし、トレーナーのところに来て教わろうとする飼い主さんは、意識の高い飼い主さんか、実際に何かすぐに解決しなくてはならない問題に直面していて切羽詰まった方が多く、犬を飼育している全体から見たらほんの一部だと思います。
しつけは問題が起きないようにするためのことですので、情報が十分に行き渡るようになったら、トレーナーを必要とする人が増えるかもしれませんし、正しい情報が行き渡ることによってひょっとしたら自分の犬も問題があるのかもしれないと気づく人が増えていくかもしれません。

■しつけのコツは「ボス」ではなく「仲間」になること

谷田:犬のしつけは大事だと感じます。しつけも進化してきているのでしょうか?

三井:そうですね。昔は体罰など犬にとって嫌なことを与える方法が主流でしたが、それではいい関係がつくれないことが科学的にもわかりました。そのため、褒めてしつける方向にシフトしてきています。カウンセリングの依頼を受けてお宅訪問をすることが多いのですが、飼い主さんの中には、まだ体罰がいけないことだと知らない方もいますね。特に、「自分が犬に舐められているから言うことを聞かない」と思っている方が多いのですが、人間が犬の上に立たなければいけないという科学的根拠は一切ないんです。それをお伝えすると、とても驚かれますね。

谷田:すると、どんな関係を築いたら良いのでしょう?

三井:「仲間」です。そもそもなぜ服従関係をつくろうとする風潮があるのかというと、犬の祖先である狼の世界では、群れの中にボスがいて絶対服従する仕組みになっているので、飼う場合は人間がそのボスにあたる役割をしないといけないと考えられていたからです。しかし、最近では狼にボスがいるという話自体が怪しくなってきたんですね。
体の大きな狼に従うのは、単にその狼が経験面や肉体的な面で優位に立っているため、群れの行動に影響を及ぼすことが多いだけです。野犬なんかを見ていても、場面ごとに優先権を持つ犬が移り変わっていきます。
だから人間が犬に対して力で上にたとうとすることは正しいとはいえません。

谷田:すぐに(犬に)噛み付いてしまう犬もいますよね。

三井:これは幼い頃の飼い方が重要です。幼い頃に犬同士の触れ合いがないまま成長させてしまうと犬語がわからなくなってしまい、別の犬に出会った時に、相手が考えていることがわからずトラブルを起こしてしまうんです。特に母親や兄弟と早い時期に離してしまうと犬語がわからなくなってしまうので、今後時間をかけてですが、ペットショップなどで生後8週以前の子犬は販売ができなくなるようになります。

谷田:犬のしつけをする際は、どんなところが重要ですか? やはり、おしっこや鳴き声でしょうか。

三井:そうですね。重要なことはたくさんありますが、例えば動物病院に行った場合に備えて、他人に触られても大丈夫なようにしておかないといけないですね。

その他にもよくお話するのは、災害時に集団の中に入っても困らないようにしておかなければいけないということです。
東日本大震災の時は、犬が吠えてしまうから避難所にいづらくなった飼い主さんが、車に避難したことでエコノミー症候群になってしまったという話も聞きました。

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■飼い主も「しつけ方」を学ばなくてはならない

三井:それから、「訓練士さんのいうことは聞くのに、家に帰ってきたら全然できなかった」という方がいますが、訓練を受ければ犬が勝手に人間社会で上手にふるまうようになるということではないんですね。時として、犬の行動を管理しなけばならないこともあるので、犬はできるようになったとしても飼い主さんが接し方を覚えなければ求めていることは成立しません。飼い主の役割は、犬の本能を社会で受け入れられるように発揮させることなので、人間の方も犬の習性をきちんと理解しないといけないですね。

谷田:犬と人の両方にトレーニングが必要だ、と。

三井:なので、うちは「しつけ教室」とは言わずに「しつけ方教室」と言っています。お互いに学ばないといけないですよね。犬は人間社会でどうふるまうべきか、飼い主さんは犬がどういう生き物なのかという。


■犬が人にもたらす効果とは

谷田:私のことを少しお話すると、株式会社タニタの代表取締役社長を務め、人間の健康のことばかり考えてきました。その環境の中にペットはいませんでしたが、今「ペットの健康」について考えていくと、人の健康の中にも、もっとペットがいても良かったんじゃないかという気がしています。

三井:そうですね。ペットが人にもたらす効果に注目され始めたのは、ここ20年くらいのことなんです。昔から、ナイチンゲールが看護をしているところに動物がいたといわれていたりしますが、実際に効果が表立って注目されたのは70年代のことでした。
谷田:どんな注目がされたのでしょう?

三井:心理学者の方が自閉症のお子さんにカウンセリングをした際に、たまたまそのお子さんが予定時間より早く来たんですね。その時、心理学者の方のペットの犬がいたのですが、犬と触れ合ったことで、普段一言も発しない子が急に喋るようになったそうです。それで、犬には特別な力があるのではないかと言われ始めました。

他にも、ペットを飼っている方と飼っていない方とでは、通院回数が違うというデータがあります。ペットを飼っている方は通院回数が少なく、経済効果で言うと、ドイツで7,500億円、オーストラリアで3,100億円の削減につながるそうです。医療の方でもだんだんと注目されてきているようですね。

谷田:現在、医療費は40兆円を超えていますからね。犬がいることで、どのような変化が起こるのでしょうか?

三井:学生時代に関わった研究の中で、「オキシトシン」という授乳や出産の際に分泌されるホルモンを扱っていました。これは世話をしたりされたりする際に出るホルモンで、人同士の関係が円滑に進むためのものと認識されていたのですが、実は人と犬の中でも分泌されることがわかったんです。なので、犬と人は歴史上長い付き合いというだけではなく生物学的・科学的なところでも関係を結びやすかったということになります。

動物の世話をすることで相手を思いやる気持ちや共感する気持ちが身につきますし、責任を持って世話をしなくてはならないことから、自分が必要とされているという自信を持つこともできます。これはお子さんに限らず、ご近所関係などが希薄になりがちな高齢者の方にとっても効果的です。


■飼い主が賢くなることで、殺処分される犬問題も軽減できる

谷田:ペット業界に来て一番気になったのが、殺処分される犬のことです。結構多いものですから。ゼロにするために、もっと犬を生かせないかと思うのですが難しいでしょうか。

三井:最近は特に、殺処分ゼロが謳われていますよね。ただ、ゼロはもちろん目指すべき数字ではあるのですが、そのために何がなんでもというのは、僕は違和感があるかなと思いまして。本当に必要なのは出口ではなく、蛇口を閉めることだと思うんですね。捨てるということを未然に防がないと変わらないかな、と。

谷田:蛇口というのは、生まれるところじゃなくて?

三井:捨てられないように、ということですね。売れるから養殖させているという問題もあるので、繁殖の部分ももちろん問題だとは思いますけれど、トレーナーの立場として僕ができることは捨てられないように、ということですね。安易に家庭に向かい入れいざ飼ったらこんなはずではなかったと捨てられてしまう犬もいます。
また、理想的な繁殖現場や母子分離の時期など、どういう過程を経てに家に迎えるべきなのかを知るなして消費者が賢くなれば、劣悪な環境で育った犬を迎えようとは思わないですよね。先ほどお話したように「かわいいうちに売りたいから早い時期に母子を引き離してしまえ」というような業者も中にはいますが、母子分離が将来的な性格に影響を与えてしまうということを消費者が知っていれば、そういう業者から犬を迎えようとは思わないはず。
そうすれば、必然的に悪徳な業者も減ってくると思うので、消費者が犬に関する知識を備えるということが大事かなと思います。そのための正しい知識を普及する啓蒙活動もトレーナーとしてやっていかなければと考えています。

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■犬を迎えることで明るい雰囲気に

谷田:先日、小学校で子供と犬を触れさせる活動をされている方にお話を伺ったのですが、生徒の中にずっと犬に触らない子がいたんです。それが、ある時手を出したんですね。みんなもその子は触らないと思っていたので、驚くと共にパッと場の雰囲気が和やかになりました。犬が子供へもたらす効果というのはすごいなと、改めて感じました。

三井:ただでさえ現代の子は自然との触れ合いが希薄になりがちなので、いいことですよね。僕も学校に犬を連れて行くことがあるのですが、やはり今まで犬を触ったことがないという子が増えてきています。命と触れ合うとか、言葉が通じない相手とコミュニケーションを図るといった、相手の気持ちに立って考える機会を得るのに最適な生き物なのかなと思います。

谷田:高齢者に向けたご提案などはありますか?

三井:飼うのはいいことだと思います。散歩に行けて運動になりますし、生理学的にもペットを飼っていると血圧が下がるという結果も出ています。老人ホームに犬を連れて行ったことがありますが、小型犬なら膝に乗せることもできますし、昔飼っていたことを思い出して涙を流された方もいました。ただし、もし亡くなってしまった後に誰が引き継ぐかということも考えた上で飼うようにしなければいけません。

谷田:改めて、動物がいることで得られる健康というのは、内側からもたらされるものが大きいと感じますね。

三井:そうですね。何より、犬と人とが触れ合うことで会話が増え、笑顔が増えます。そういうことが、結果的に健康に結びついているのかなと思います。

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三井先生の連載コラムはこちら
【犬と人と-共に生きる】人はなぜ動物を求めるのか?

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