「匠に聞く・日本犬との向き合い方」に寄せられた飼い主さんからのご質問に山下先生がお答えします。

 

質問者の愛犬情報
犬種:柴犬

性別:男の子

避妊去勢手術:未

年齢:2歳8か月

飼い始めた月齢:4ヶ月齢(推定)

散歩を始めた月齢:6~7ヶ月齢

 

質問

正確に覚えていないのですが1歳くらいの頃からバイクや自転車が通る度に吠えて追いかけるような行動をするようになりました。(それ以前は普通に歩けていました。)
自動車に対しては反応しません。
家の中であればまだいいのですが散歩の際もするので不安です。

 

散歩は母(62歳)がすることもあるのでできればやめさせたいと思っております。
うちの柴犬は保護団体から貰ってきた子で普段から音や初めての物や生き物に対する警戒心が強く臆病です。

 

以前、動物病院の先生に聞いたときはワクチン接種が遅くなってしまい、散歩に出すまで時間がかかった為だと言われたことがあります。
バイクや自転車に恐怖を覚えて縮こまるのならばわかるのですが、まったく逆の行動なので戸惑っております。理由と解決できる方法があるのならば知りたいです。よろしくお願い致します。

 

 

【匠からのアドバイス】

純粋な恐怖から来るものであれば,おっしゃる通り,縮こまったり逃げようとしたりするはずです。吠えて追いかけようとする,ということですから,それとは違う反応であることがわかります。

 

散歩の時など,そばを通る乗り物に強く反応する場合,その動機は大まかに3種類に分けられます。
 
①萎縮・逃避
②追い払い
③狩猟・追跡

 

①萎縮・逃避

恐怖感による行動で,極端な場合は失禁することもあります。普通は大型の車であるほど強く反応します。

 

飼い主さんがおっしゃる通り,ご愛犬の場合にはこれは該当しないと思います。

 

恐怖による行動であれば,最初は平気だったのに半年も経ってから強く反応するようになる,ということは考えにくいです。(轢かれかけたというような重大なエピソードあれば別ですが)

 

②追い払い行動

近づいてくる相手を遠ざけようとする反応で,恐怖感と攻撃性の両方の要素があります。近づきたいのではなく遠ざけたいのですから,走り去って少し距離が空けば急にほっとして緊張感が取れるはずです。

 

③狩猟・追跡行動

目の前を素早く動く相手に対して思わず血が騒いでしまうもので、恐怖感はほとんどなく,とびかかりたいという衝動が勝っています。

 

通りすぎた直後くらいが一番激しく興奮し、遠ざかってしばらくはなごり惜しそうに視線を向けているはずです。四輪自動車に対しては反応が弱く,人間の体がむき出しになっているバイクや自転車に対して強く反応する、というのもこの特徴です。

 

ご愛犬の場合は明らかに③の狩猟・追跡行動だと思います。

 

この場合、リードを張らせたまま対象(バイクや自転車)に向かわせている状態だと余計に意欲を煽ります。後ろから「だめ~!」などと声をかけるとさらに興奮させてしまいます。

 

対策は二つの要素で考えてください。

ひとつは「追いかけずにはいられない」という血が騒ぐ対象からできるだけ早く意識を切ってしまうこと。

 

もうひとつは、対象が近づいてくる時に別の目的を作ってしまうことです。

 

具体的には、バイクや自転車に気付いてそちらに視線を向けた途端、逆方向に小走りして180度転換させ、顔の向きを変えてしまってください。

 

そして、振り向く暇を与えないよう、対象と反対方向に食べ物をばらまいてください。

 

この時、禁止の指示や叱り声などは絶対にかけず、淡々と事務的におこなうことが大切です。「困った行動を直す」「言うことを聞かせる」という意識ではなく,愛犬とのスポーツのつもりで、できるだけ早く対応することだけを考えてください。

 

このトレーニングに本気で取り組むのであれば、家では食事を与えず、朝夕の散歩の時に1食分ずつ持って出て、バイクなどが来るたびにひと握りずつフードをばらまくようにしてください。フードが散らばるのが気になるようであれば、白飯など粘着力のある食材で数粒ずつ固めておいても構いません。

 

もしバイクや自転車が来なかったら、適当なタイミングで車道と反対側に食べ物を投げるだけで結構です。

 

犬の散歩というのは、もともとは生活圏のパトロールや食料確保のための探索行動です。素早く動くものにとびかかる,というのもごく正常な反応ですし、それが食べられるものなら捕まえて食べる、というのもごく自然なことです。

 

でも、「バイクや自転車を追いかけたい」という衝動をかなえてやることはできません。ならば、「いつどこに食べ物が飛び出してくるのか?」という意識にすり替えてしまうわけです。

 

もしお母様がとっさの小走りができないのであれば、「バイクや自転車が来た時は反対方向に食べ物を投げる」というだけでも構いません。

 

そのトレーニングをしばらく続けて行けば、バイクや自転車が来ると「ごはんは?」という目でこちらを振り向くようになるはずです。

 

その時には思い切り明るい声でほめて、地面にばらまくのではなく手から与えて構いません。それにも慣れてきたら、次第に毎回ではなく何回かに一回ランダムに与えるようにして行きます。

 

そのレベルになれば、家での食事も復活させて構いません。

 

ご自宅ではいつも犬の行動を見ていられるわけではないと思いますので、道路が見えない部屋を普段の居住場所にしてください。

 

それが難しいようでしたら、バイクや自転車に吠えた時でも叱ったりせず、視線も向けず、何ごともなかったかのように無視してください。

 

しばらくやってみて反応を教えてください。

 

軽井沢ドッグビヘイビア 獣医師  山下國廣

 

軽井沢ドッグビヘイビア

 

 

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