神奈川県横須賀市の追浜(おっぱま)の工場地帯に、貝山緑地という緑深い丘があります。展望台もあり、夜景がキレイだというこの緑地の東側すぐそばにあるのが「横須賀市の動物愛護センター」です。
(正式には「横須賀市役所 保健所保健生活衛生課動物愛護センター」)

 

 

今回はこちらで行われている動物愛護の取り組みについて、所長の高義さんにお話を伺ってきました。

 

まずは施設を見学させてもらいます。

 

 

「ここの窓口では飼い犬の登録や、注射済票交付の手続き、それにペットショップやトリミングサロンさんなど取扱業者の登録受付を行っています。」

 

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「ここは洗浄室です。保護した動物を洗って乾かしてあげるところです。」

 

 

床にシーツでくるまれた物体が並んでいます。

「これは地域猫を保護した市内の地域猫活動団体さんから預かった猫たちに、当センターで避妊手術を施すために預かっています。」

 

 

 

シーツをめくるとあらわれたのは捕獲器。そして中にはにゃんこたちが。野良さんなので警戒心が強く、落ち着いていられるようにシーツで目隠しをしています。

「この子たちは手術が終わり、今日保護団体さんがお迎えにくるのを待っています。」

 
 

 

次に来たのは「犬の保護室」です。結構大きく見えますが、収容された子が多い時は雑居房になり、複数が同じ房に入るようになるので「もっと大きくすれば良かった」と所長。

 

 

 

「天気が良ければ、裏庭ではなしたり、リードをつけて運動させたりします。脱走防止に塀も高くしています。」

裏庭は広々としたスペース。貝山緑地の豊かな緑がせり出すようにしています。この崖の麓部分には戦時中に使われていた防空壕が残っていました。

 

 

 

中へ戻って猫の保護室へ。
保護室前には子猫が入ったケージがひとつ。
 
「この子はまだ保護したばかりで虫が見つかったため、駆除などの処置が済むまでこちらにいてもらっています。」
 
この子は一般の方が保護して持ち込まれました。
センターに来るのは、この子のように一般の方が保護した子の他に、警察署からであったり、保護団体からである場合も多いのだそうです。

 

 

 

その向かいには炭酸ガスのいわゆる安楽死処分機が置いてあります。
 
「当センターでの安楽死頭数は、昨年で犬1頭、猫11頭、その他が2頭でした。犬と猫の数は激減していますが、実は機械自体はほぼ毎日動かしています。なぜかというと、実はハクビシンのような害獣と呼ばれる動物、あるいは捕獲された外来生物の処分をここで行っているからなんです。」

 

 

 
「昨年の安楽死された犬の1頭は犬に対して非常に凶暴で、歯を削ったり色々と試したんですがだめだった子でした。」
 
「猫で処分されるのは大抵が子猫です。子猫と言っても本当に小さい、乳飲み子です。一人では生きていけないような子です。または負傷していて死にそうで、苦しんでいる子ですね。」
 
「殺処分という問題に対して、もちろん尽力していかなければなりません。
でも病気で苦しんでいる子を放置しておけばいずれ死んでしまう。
だけど苦しみを取り除く目的で安楽死を選択すれば殺処分数にカウントされる。
これはもちろん難しい問題ですが、どうしていくのが正しいのか?という事は考えていかなければならないと思います。」
 
「ゼロ」という数字に拘りすぎることで新たに起こってきた問題というのは、先日のアニマルウェルフェアサミットでも出ていた話題。苦しく生きているのがつらいような状況でそれでも殺処分ゼロを達成するために生かし続けておくことが果たして本当の「アニマルウェルフェア」なのか?

 

 

 

猫の保護室には現在、保護された10匹程の猫たちがいます。ほとんどは子猫。
みんな元気に泣いております。

 

 

「この子は片方の目が欠損しているので、兄弟5匹で来ましたが1匹で残ってしまいました。もう3ヶ月くらいかな。」

 

 

「大抵すぐ引き取り手が見つかります。早いと1週間くらいで貰われていく子も。
メスは避妊手術後の期間があるので大体2ヶ月くらいはかかります。オスの場合は術後すぐに引き取りが可能です。」

 

 

この子は最年少でただいま離乳中。顔がガビガビなのは皮膚病ではなく、離乳食がついて固まってしまっています。かわいい。

 

 

「センターの処置室で行うのはほぼ不妊手術のみです。当センターには私を含めて5人の獣医師がいます。」

 

 

「これは医療器具を高圧滅菌する機械ですが、お芋なんかは一瞬でホカホカになります。もちろん、やってませんけどね(笑)」

 

とってもユニークな所長に会いに来るだけでも、センターに足を運ぶ意味がありそうです。

 

そしてこちらのセンターでは、「動物愛護精神の啓発」を促す活動の一つとして、様々な市民の人たちに向けた取り組みを積極的に行っています。

  • 犬の飼い方教室(年4回)
  • 猫の飼い方教室(年1回)
  • 動物愛護センター開放DAY

飼い主体験や猫ボランティアさんによる展示のほか、譲渡会なども行っています。
 
そして今年の夏休みに初めて実施したのが市内の小学生(4年以上)を対象とした「親子体験教室」で、この日は動物愛護センターの業務を体験することができます。
犬や猫の世話はもちろん、施設の掃除や治療の手伝いなどを2時間かけて体験するプログラムです。
 
ユニークなのは迷子のペットの問い合わせ対応。ペットの特徴を電話でヒアリングして収容の有無を答えるシュミレーションです。
 
職員のペットに協力してもらい、保護して収容する体験や、保護した動物の心音を聞いたり、お尻からの体温計測などの健康診断も。
 
充実した内容で第1回の参加者には大好評だったそうです。
このプログラムは来年も実施予定。お近くの方はぜひチェックしてください。

 

 

「開放DAYには「みゅーまる」さんに公演をしてもらっています。長い目で見て、子供ころからの動物愛護精神の教育は非常に重要なことだと思っています。」
 
みゅーまるさんは「僕の声きこえる?」という1頭の犬が捨てられて、殺処分されるまでのことを自ら話して観客に聞かせるという劇。
 
飼い主家族がなんの悪気もなく、生活の変化によって愛犬を見放していく様子が、愛犬自身の言葉で淡々と語られていきます。

 

「もうひとつ、センターの大切な業務のひとつが迷子の収容です。迷子の変換率というのはとても重要で、飼い主さんの元へ帰せるかどうかは命に関わること。」

 

「いなくなった子を一生懸命探していても、センターのことを知らずに電話してこなかったということもあるので、多くの人にここの存在を知ってもらうことがとても大切です。」

 

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収容にかかる費用は1日1000円。金額の問題だけではなく犬にとって飼い主さんの元を離れて知らない場所で孤独を感じながら過ごす時間はきっととてつもなく長いことでしょう。
 
「1日でも1時間でも早く家に帰してあげたい。だから飼い主さんからの連絡を待っているだけでなく、その子がいるよという事を発信できるという点で、MAMORIO はとても素晴らしいと思いました。」
 
MAMORIOはスマホアプリと連動して位置情報を取得できるICチップ入りタグです。ペットの首輪につけておけば、そばを離れた時にスマホアプリで位置を探すことができます。
 
Fanimalでは「迷子をなくす運動」として、全国の動物愛護センター等にアンテナとなるMAMORIO Spotの設置協力を働きかけています。

 

横須賀愛護センターにはMAMORIO  Spotの設置で協力していただいていますので、MAMORIO を首輪等につけたペットが収容された場合に、飼い主さんへアプリを通してここにいることを発信する事ができるのです。

 

「マイクロチップは専用の読取機械が必要になりますから。MAMORIOはつけていればひと目でわかるのが良いです。」

 

「動物愛護センターは、なかなか正しくその役割が伝えられていないのが現状です。愛護団体の施設だと勘違いされている人もいらっしゃいます。ただで動物をもらえると思われている場合もありますし、あることさえご存知ない方も、まだたくさんいらっしゃいます。」

 

 

「とにかく発信していくことが大事。」そう所長さんは言います。
 
子供の頃から動物愛護について、身近に体験できる機会はなかなかないもの。開放DAYや夏の体験イベントは動物と触れ合い、その生命をつないでいく大切さを感じる良いきっかけになりそうですね。

 

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