
大地震で頭がい骨骨折の重傷を負い、5年をかけて生還した猫
7年前に起きたニュージーランドの大地震。
そのとき1匹の猫が瀕死の状態で救助されました。
大地震で大けがを負った猫
2010年9月4日にニュージーランドで起きた「カンタベリー地震」。
マグニチュード7.0の大地震は、死者こそいなかったものの、けが人や建物の倒壊などクライストチャーチに甚大な被害をもたらし、多くの動物たちも被災しました。
フロイドはその大地震から瀕死の状態で救助され一命をとりとめた猫です。
地震当時はフロイドという名前ではありませんでした。
ケガをしたフロイドは飼い主に捨てられたため、元の名前は分かっていません。
9月4日の早朝、フロイドはシャーリーの街を散歩していました。
その時に地面が激しく揺れ、倒壊した建物のがれきがフロイドの上に降ってきたのです。
がれきの除去が始まったのは地震発生から10日後。
それまで誰にも、がれきの下で大けがを負った猫が生きていることが知られることはありませんでした。
がれきが除去されたとき、フロイドは半ば識を失っており瀕死の状態でした。
作業員はSPCA(動物虐待防止協会)に連絡し、すぐさまSPCAの動物用救急車でそのときに唯一診療をしていた獣医に搬送されたのです。
SPCAは各国に拠点を置く動物愛護組織ですが、国によってかなり力の差があります。
イギリスやカナダ、ニュージーランドなどの動物愛護に関心の高い国では、組織の力もあり動物保護のために活躍しています。
そのとき診療してくれたカナダ人医師が、母国にいる自分の猫に似ていることからフロイドと名付けました。
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飼い主に捨てられたフロイド
フロイドはかなりの重傷でした。
足をけがしていて、頭蓋骨の左側が骨折しひどい損傷を負っていたのです。
獣医師と看護師が、がれきの破片やほこりを取り除くとそれだけではなく、もっとひどいことが判明しました。
フロイドの頭蓋骨の右側は目の上から耳のあたりまで陥没して、砕けた頭蓋骨は脳にめり込んでしまっていたのです。
もはや、フロイドの頭蓋骨は修復が不可能で、穴が開いてしまった頭蓋骨の部分を残っていた皮膚でふさぐことしかできず、彼の顔は変形してしまいました。
フロイドの飼い主が判明し病院へやってきたのですが、なんと、醜くなったフロイドを見て安楽死を希望したのです。
筆者には懸命に命をとりとめている姿にしか見えませんが、この元飼い主にとってそれは醜い傷でしかなかったのでしょう。
がれきの中から救い出され、ひどいケガにもかかわらず生き延び、たとえ醜くはなったとしても生きられる可能性がある猫を安楽死にすることは、治療した獣医師にはできませんでした。
助からず苦しむだけの場合、安楽死という手段もあるでしょう。
しかし、重症でも助かる見込みがあったからこそ獣医師は助けたのでしょうし、フロイドを発見し獣医師に託すまで関わった人たちすべてが助かることを祈って行動したでしょう。
医療費の問題もあるかもしれませんが、大地震を生き残った猫に対して飼い主の態度は冷たいとしか思えません。
フロイドにかかわった人間の中で、一番フロイドを気にかけなかったのが飼い主だったことが非常に悲しいことです。
そもそも夜中、猫を放し飼いにしている飼い主なので、飼い猫の生死は重要ではなかったのかもしれません。
猫として一から学ぶ
フロイドはその後6週間にわたって感染症を防ぐために抗生物質を投与されました。
できることは感染症を予防することだけで、あとはフロイドの生きる力にかかっていたのですが、時間はかかりましたがゆっくりと回復に向かったのです。
診療所のスタッフは24時間体制でフロイドをケアしました。
命を取りとめたフロイドですが、脳に損傷を負ったために猫だったら当たり前にできることができなくなってしまっていました。
フロイドは生まれたばかりの子猫のように、飲んだり食べたりすること、歩くこと、トイレに行くことをもう一度覚えなおさなければなりませんでした。
里親との出会い
獣医師のもとでゆっくりと回復していたフロイドですが、彼を支えたのは獣医師や看護師だけではありませんでした。
メリッサさんは、フロイドのことを救助されてから2か月後にインターネットで知りました。
メリッサさんはフロイドの面倒を見ていた獣医師に寄付を申し出ますが、獣医師からフロイドに必要なのは寄付ではなく家であると話をされました。
獣医師の言葉にメリッサさんは数日間考えます。
先住の2匹の猫はフロイドを受け入れてくれるのか。
きっと、重症のフロイドのこの先の猫生に責任が持てるかどうかも自問したでしょう。
話題になっているかわいそうな犬や猫を見たとき、盛り上がってよく考えもせずに里親に名乗り出る人がいますが、それは動物にとっても人間にとっても不幸でしかありません。
命に対する責任を背負う覚悟がないと結局は放棄することになり、再びその子を不幸につき落とすからです。
人間と暮らす動物たちには家族となってくれる人間が必要です。
しかしそれは誰でもいいわけではありません。
メリッサさんは迷いながら実際にフロイドに会い、この子の里親になると決心しました。
5年をかけて猫としての生活を取り戻す
メリッサさんの家族になることができたフロイドですが、2年前までは(つまり保護されてから5年間は)、自分でグルーミングをすることができませんでした。
フロイドの右目はちゃんと閉じることができず、傷の影響と足のけがによりジャンプができませんし、平衡感覚も正常ではありません。
しかし、現在フロイドは普通に健康な生活を送ることができるようになりました。
確かに多少の障害はあるのかもしれませんが、見違えるほどに回復したフロイドです。
メリッサさんはフロイドのおかげで笑顔の絶えない生活を送っていると話しています。
メリッサさんの後をついて回り、夜9時30分には決まっておやつをねだるのだとか。
メリッサさんのお風呂を出待ちして、夜は一緒に眠るのだそうです。
フロイドは100%完全に回復することはないのですが、ほかに悪いところはなく健康で家族に愛されて楽しく暮らしています。
フロイドは地震の被災猫として2014年に出版された「Quake Cats」という地震を生き延びた被災猫の本に「The Unknown Cat」として飼い主に放棄された猫として紹介されていました。
この本の収益の一部は猫の保護団体に寄付されたそうです。
地震発生から7年を経過した2017年9月5日に、この本の作者クレイグ・ブロックさんがメリッサさんから「The Unknown Catは自分の愛猫なのではないか」と知らされたことから、フロイドが地震で瀕死の重傷を負ってから5年の歳月をかけて猫としての生活を取り戻し、現在、里親になってくれた人と幸せに暮らしていることが判明したのです。
重傷を負いながら一命をとりとめたフロイドを元の飼い主の望んだ安楽死させずに生きる道を残し、さらに里親を探す努力をしてくれた獣医師、そしてフロイドの里親になり7年間彼を支え続けているメリッサさんには心から感謝します。
がれきの下で10日間を生き抜いたフロイドが日の光の当たる場所で、愛情に包まれて暮らしていることに、そしてフロイドの生命力の強さと愛情深さ、そのすべてに感動してしまいます。
出典
Floyd: The Unknown Cat | Quake Cats
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